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体中が痛い。
もうダメかと思ったのに、私の目の前には愛しい人が居てくれた。
意識が飛ぶ前に何度も名前を呼んだ…海斗が。
しかしその顔は苦しげに歪み、頬には涙が伝っている。
滅多な事では泣かない海斗の涙に胸が締めつけられた。
腕を伸ばしてそれを拭ってあげたいのに腕が動かない。
どうやら縛られているらしい。
「…どうして…泣いてるの…」
掠れた声が出てしまった。
うまく声が出せない。
「こんなに怪我を…すまない、間に合わなかったな…。」
大きな手が私の頬に触れた。
しかし、その手が血に染まっている。
「どうしたの…?この血…」
そう聞いてからハッとし、勢い良く先ほどまで海斗がいた場所に目を向けた。
途端に体中に激しい痛みが走る。
「っ…米沢さ……」
「死んではいません。…ちょっと気を失っているだけです。」
慌てたように言う優の言葉にホッと胸をなで下ろした。
海斗が無言で縛られた腕をほどき、座ったまま強く抱きしめてくれる。
「…すまない。すまない…」
何度も謝る海斗の方が辛そうだった。
「…謝らないで…?ちゃんと来てくれたじゃない。泣かないで。泣かないで海斗…。」
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