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旅館の部屋に着き、荷物を置くと真っ先に窓を開ける。
正しく日本庭園、という景色が視界いっぱいに広がり。
感動でため息が零れた。
「こちらは離れの部屋になっておりますので、ご用の際はそちらにあるお電話でお呼び下さい。お夕食は6:30にお持ち致します。お布団は9時にお敷き致しますので、よろしくお願い致します。」
穏やかな口調で言い、仲居さんが静かに襖を閉め出て行く。
ここはホテルで言えばスイートルームみたいなもので、長い渡り廊下を歩いた離れになる。
広い部屋に、私達だけの露天風呂。
正にゆっくりするにはうってつけだ。
「…落ち着く。良い所だね。」
「ああ。…今度は子供達と来たい、そう思ってるんだろう?」
窓際に立つ私を挟むように窓枠に手をつき、海斗が耳元で囁く。
「やだ、何で分かったの?」
確かに今そう思った。
美味しいものを食べても、キレイな景色を見ても、思う事はいつも同じ。
『子供達や海斗にも食べさせたいな』
『みんなでこの景色を見に来たいな』
それが何故分かってしまったのか。
首を傾げる私の耳朶に息を吹きかけ、海斗が笑った。
「遊里の考える事なら分かるさ。…伊達に一途に思っているわけじゃない。」
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