5610人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
それを聞いてハッとした。
「…ごめんなさい海斗、心配かけて…」
「それは…お前のせいじゃない。俺がもっと早くっ…」
怒ってたわけじゃない。
海斗の心臓が止まりかけたのだ。
私が米沢さんに組み敷かれている場面を見たあの瞬間に。
傷ついた私の顔を見て、胸が張り裂けそうになったのだ。
そして自身を責めた。
私を止めていれば良かった。
もっと早く駆けつければ良かった、と。
私の怪我の診断が下るまで気が気じゃなかったのだろう。
私はそっと海斗の背中を抱きしめ、優しく叩いた。
海斗のせいじゃない。
私が一人で出歩かなければ…。
あんな作戦に乗らなければ。
そうすれば防げた事件だったのだから。
だけど今更後悔をしても仕方ない。
それよりも…また二人でこうして抱き合える今を大事にしなければ。
「…旅館に帰ろう海斗…。まだ旅行は残ってるよ。」
「ああ、そうだな…。帰ろう。」
顔を離し、海斗に微笑みかけた。
安堵したような笑みが返され、体が離れていく。
その代わりに、大きな手が私の手を包み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!