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人込みに流されるままに、右へ左へふらふらと歩く。
そして、ある女に声をかけられた。
「一人なの?」
声には出さず、こくりと頷く。
「私も一人なの。ね、一緒に来て?」
断る理由がなかった。
自分には行くところがない。
私は黙って、その女に着いていった。
「綺麗な髪‥」
ぼんやりと、思ったことを口にしていた。
「そう?この髪自慢なのよ。ありがとう」
彼女が笑った瞬間、自分も思わず微笑んでしまった。
笑い方なんてまだ覚えていたのかと、自分でも驚いた。
「笑えるんじゃない。貴方、名前は?」
「‥‥」
答えなかった私に、彼女はまぁいいわ、と微笑んだ。
彼女の部屋へ着くと、彼女はアゲハと名乗った。
「アゲハ‥?」
呟いた私に、アゲハは上着を脱いで左胸を見せた。
「う‥ゎ‥」
今にも動きだしそうな程、美しく描かれた一匹の黒いアゲハ蝶。
「髪の次にね、自慢なの」
アゲハは、その美しい黒髪をさらりと揺らし、キッチンへと入った。
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