沈む泥棒

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そして、待ちわびた決行の日が来た。 僕の目の前には奴がいた。 僕はここまで、正々堂々と、着実に、すべてのセキリティを突破してきた。 慎重になり過ぎる程、あらゆる障害を想定し、すべてを取り除いてきたのだ。 …僕はゆっくりと、奴に近付く…… 遂に目の前にきた。 奴は目の前で立っている…僕は奴の肩を掴むと、大外刈りを華麗に決めた。 これは嫌味の意味も込めている。 そして素早く腕を後ろに回すと、完全に動きを制した。 そして身体を縛り上げ、僕は用意していたボイスレコーダーのボタンを押す。 [これで不幸の借りは、返しました。] …ただ、それだけ。 ただ、この時のためだけに、僕は賭けたのだ。 僕はそうして、奴からすべてを奪い去った。 その帰り道、僕は高校生みたいに、思いっきり笑ってやった。 笑った、笑った。 すべてがあっけなく感じるほどに。 そしてやはり、僕は過去を思い、ふけっていた。
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