熱帯魚の憂鬱

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昨日   「人には感情というものがあるらしい」 「なに、それ」 彼が突然言った。わたしには聞き慣れない言葉だった。 「感情というのは、笑ったり、涙を流したりできるものらしい」 「笑った?涙?」 「涙というのは、目からこぼれる水らしい」 「へぇ」 わたしは彼の目を見た。このガラス玉みたいなものから水がでるのだろうか。 「そしてその、涙を流すということが、泣くということらしい」 「そうなの」 「ぼくたちも泣いたかな」 「なにが」 「だから、この世界に生まれたとき、ぼくたちも泣いたかな」 「たぶん、わたしたちは泣けないと思うわ。この世界の人じゃないから」
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