足音

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僕が何年かぶりに実家に帰ったのは、ゴールデンウィークも終わり、梅雨の足音が聞こえ始めた六月最初の土曜のことだった。 その日は朝から小雨がぱらついていたが、僕が二時間程電車に揺られている間に雨はすっかり止んでいた。雨が止んだこともあり、僕は実家近くに停まるバスには乗らず、実家まで歩くことにした。 駅近くにある公園の側を通った時の事だった。信号待ちをしている一人の老人が、僕のことをまるで睨みつけるかのようにジッと見ているのに気付いた。 最初は、偶々(たまたま)僕の方を老人が見ているだけだと思っていたが、僕の動きとともに老人の視線もそれに合わせ動いた。 "知り合いかな"と思った僕は小さな会釈をした。すると道の向こうで老人は満足そうに笑った。 それから僕は、たっぷり四十分かけて実家まで、歩いて帰った。実家の表札が見えるところまで来ると母の大きな喋り声が耳に届いた。
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