貧乏神

2/14
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
「じゃあ百道先生、そういうことでよろしくお願いします。」 小さな出版社の編集部に勤める小早川信明が、僕にそう告げたのは午後四時を少し過ぎた頃だった。 「ああ、了解した。それにしてもこの不景気な世の中で、君のところは順調に部数を伸ばしているらしいじゃないか。羨ましいかぎりだね。」 僕が笑って言うと、小早川君も笑顔で答えた。 「いやぁ、お陰様で。一時は出版社そのものがなくなるんじゃないかと思った時も正直ありましたけど、なんとか、この歳で再就職先を探す事だけは回避出来そうです。」 「小早川君、謙遜するなよ。この間だってテレビの朝の情報番組の取材を受けたんだろ?」 「うへぇ、百道先生よくご存じですね。つい一昨日ですよ、テレビ局の取材。誰から聞いたんです?」 「君が来る前に編集長から電話をもらっていてね。すこぶる上機嫌でね。訊いてもいないのに色々と教えてくれたよ。」
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!