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「今回結構大きめの馬車でよかった……。」
「前の時だいぶ狭かったんだよね。」
「血生臭くて吐きそうになりましたからね………。」
「そういえばあの馬車………俺らのせいで変な噂が流れていわくつきになって廃棄したらしいよーつって。」
「血の臭いが取れなかったんだってぇ………。」
「申し訳ない気持ちでいっぱいだ………。」
今、調度出発した所だ。
馬を操るのはハヤト、その隣にはヒカルが座っている。
「この馬いいね。素直だ。」
「ウヒャヒャッ喜んでるよっつって!」
「マジで?じゃあ長旅よろしくな?」
ぶるるっとハヤトに応えた。
かぽかぽと鳴る蹄の音が心地好い。
「あっ、黒猫だっ!」
「えっ、ヒカル……どこ?」
あそこ……と言って指差した先の塀の上にはクロがいてハヤトの事をじっと見ていた。
「おいで………。」
だいぶ小声で言ったが聞こえていたらしく走ってきた。
うまく道を選んで馬車の屋根に飛び乗った。
「ハヤトに懐いてるんだね。」
「なんでだろうな、大抵の動物に嫌われんのに。」
「この黒猫ちゃんにはわかるのかもねっつって!」
「だといいけどな。」
ハヤトは苦笑しつつエンラで足場を作った。そしていつものように肩に乗る。
「ほんと好きだな、肩の上。」
肩の上でゴロゴロと喉を鳴らし、ハヤトの頬に擦り寄ってくる。
「くすぐってぇっつーの!」
―にゃあっ
クロは鳴いてハヤトの肩から飛び降り横に丸まった。
「この子ちゃんと空気読むね?」
「お前と違うからな。」
「今さらっとひどいこと言ったよね?」
「さぁな……。」
ぎゃあぎゃあと騒いでいるヒカルを横目にハヤトは苦笑して馬を操るのに集中する。
「ヒカル、もうすぐ門だからこれ見せて。」
「はーい!」
ハヤトはヒカルに五色の紐が付いた六角形の形をした木の板を渡す。
「手続きが面倒だからね。」
「今日も並んでるるもん、あれ……絶対三時間待つよね?」
「だな、あっヒカル……。」
「りょーかいっ!お願いしまーす!」
受付の人が顔も見ずにヒカルから札を受け取り、その裏を見て(裏に所持者の情報が記入してある)ハッとして顔を上げる。そして火が着いた様に赤くなった。
「ど……どうぞ………き…記入終わりました。」
「ウヒャヒャッ、ありがとねーつって!受付頑張ってねー!」
「………はいっ!」
ヒカルが札を受け取り手を振った。
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