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そもそも、1年もこの関係が続いたのが不思議なのだ。
寿の部屋を出て10分。
もうすぐ収録現場に到着する。
付き合って1ヶ月もしないうちから気づいてはいた。
彼は、俺をみていない。
彼がみていたのは、俺ではなくて、
「あ、駆ちゃんっ!!!」
この、底無しに優しい俺の友人。
「おはよう」
「おはようっ☆…って、なんか元気なくない?どうかした?」
心配そうに顔を覗きこんでくる友人は、俺よりも身長が高いくせに、誰よりも可愛い。
ふわふわの髪。
明るくて優しい性格。
そして何より、
「具合とか悪かったら言ってね…っ?」
この、人を気遣える優しさ。
これが、俺の彼に勝てない理由。
頭が悪くたって、たまにその明るさが裏目に出たって、彼は誰からも愛される太陽みたいな存在。
そんな彼に、俺なんかが勝てるはずもなく、この1年、いくら恋人らしいことをしても、いくら体を重ねようとも、寿が俺の本当の恋人になることはなかった。
「駆ちゃんっ!行こっ!」
「おう」
だからと言って、寿が悪いわけでも、ましてや阿井ちゃんが悪いわけでもない。
悪いのは、こんな風にしか考えれない俺。寿のために背中を押して、本当の幸せを掴ませることができない俺。
仕方ないじゃないか。
だって俺は、寿が好きなんだから。
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