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運転中に携帯が鳴り、車を左に寄せて止めた。
「もしもし」
「あ、川口係長、桜田ですけど……」
電話を掛けてきたのは、会社の事務員の桜田美知子だった。
得意先からの電話があり、今すぐ連絡が欲しいとの事だった。
ふとルームミラーに目をやると、後ろから来るパトカーが映っているのが見えた。
過去に運転中に携帯で話をしているところを捕まった事を思い出した。
(止まっていて良かった……)
停車したまま、携帯のボタンを押し得意先に掛ける。
目は再度ルームミラーへと移った。
近付いて来るパトカー。
そしてそれに手を振り何かを叫んでいる女が映る。
(は? 事故か?)
いや、事故を起こした車はいない。
パトカーがその女の前で停車すると、助手席に乗っていた警察官が窓を開け、女と何やら話している。
(一体何があったんだ?)
携帯の向こうから聞こえてきた得意先の事務員の声に、我に帰る。
「あ、もしもし、私、〇〇商事の川口と申しますが……。
いつもお世話になっております。長澤課長をお願いします」
俺はスーツの内ポケットから手帳を取り出し、携帯を耳に当てたまま前方に見える桜の木を見ていた。
北海道の桜は5月になってやっと咲き始め、春が訪れた事を感じさせていた。
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