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朝。
いつもの鍛練を終えて、俺はのんびりと朝ご飯を食べていた。
しかし、姉貴は違ったようで忙しく食べていた。
まったく困った姉貴だ。朝ご飯くらいゆっくり食べてはくれないのかね。
なんて馬鹿らしいことを考えつつも、俺は浮かんでしまいそうな笑みを必死でこらえ、その光景を見ていた。
▽
「これから暫く離ればなれになるが、関平が寂しくならないようにまえに使っていた髪止めを預けておく」
「別にいらねーけどさ」
「いつでもそれを握りしめて姉さんを思い出せ」
「無視かよ」
俺と姉貴は玄関でそんな会話をしていた。
姉貴は戦にでる時の武装をして、手には青龍偃月刀。
なぜ朝っぱらから、こんなかっこうをしているのかというと、なんと今日から賊の討伐に行くらしいのだ。
傭兵の仕事だと思ってくれたらいい。
討伐。
しかも数日だ。
当然、その期間姉貴は我が家を離れることになる。
つまり、それが編み出される解答は…………。
「…………な?か、関平………泣いているのか?」
「ああ、ちょっと…………な」
目にたまった涙を拭う。それでもあとからあとから涙は溢れてくる。
ああ、嬉し泣きなど何年ぶりだろうか。
ようやく、俺にも春が来たのだ。
「そうか…………そんなに寂しいか。できるだけ早く帰ってこれるよう姉さん頑張ってくるからな」
「いえ、けっこうです」
「帰ってきたら、姉さんがご飯を作ってあげるからな」
「いえ、それは本当にけっこうです!!」
「ならば、関平。姉さんはそろそろ行くぞ」
「ああ、気を付けてな。それから鈴々姉さんにもよろしく」
「ああ」
それから、姉さんは玄関から出ていく。
ああ、やっとです。やっとですよ皆さん。やっと夢にまで見た一人きりの生活が始まるのです。フリーダム イズ ベスト。なんて甘美な響き。
「――――おっと、うっかりしていた。肝心なことを言い忘れていた」
くるりと。
道の途中で、姉貴は振り向いた。
「関平。姉さんがいないからっといって、家に女子を連れ込んだらだめだぞ。もしそんなことをすれば――――」
青龍偃月刀を地面に突き刺した…………って、おい!?じ、地面が!地面が半径一メートル陥没した!?
「覚悟しておけ」
満面の笑みの姉貴。
…………絶対にしません。
俺は心にそう誓うと同時、姉貴に敬礼をしておくり出したのだ。
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