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「入りづらい…………」
優希ちゃんの襲撃から一時間くらいたった。
天気は嫌みなほど快晴。いっそ曇天であってくれたら気分を分かち合えてるみたいで、少しは心が軽くなったかもしれない。
宿から歩いて数十分。俺はその場所に着いた。
目の前には見上げてしまうほど大きな門。中にはだだっ広い空間が広がっているのだろう。
ダメだ。無理です。だって場違いにもほどがある。こんなところ一昨日まで一般市民だった人間が来ていい場所じゃない。
目前でうろうろしている俺に、先ほどから門の側に控えた兵隊の格好をした男性………というか、兵隊さんが、チラチラ怪訝な眼で見てきている。
当然か。こんなこの世界にとっては珍しいポリエステルの制服なんて着てたら。
……………なんで義斬先輩は朝俺を置いていったんだろうな。
一緒だったら踏ん切りもついて中に入れたはずなのに。
いや、まて。
まさか、義斬先輩は俺に勇気をつけさせるために、これから生きていくための俺の覚悟を試すために、こんなことを?
「………はは。なんだよ」
上等じゃないか、義斬先輩。俺の覚悟、見せてやる。
「帰ろう……………」
やっぱり無理だ、こんなの。門を背に、先ほど泊まっていた宿に向けて歩きだす。
たった一歩で、蹴り飛ばされた。
「一刀君のばか!意気地なし!チキン!」
二回転したところで止まり、俯せで倒れた背中に涙声の罵声が浴びせられた。だが、絶対に泣いてないはずだ。むしろ笑ってる。賭けていい。
「…………いつから、見てたんすか?」
制服についた埃をパンパンと払いつつ起き上がる。勢いよく蹴られたが、痛みはさほどなかった。
振り返ってその輩達を睨み付ける。
…………ほら、泣いてない。むしろ、蹴った張本人であろうフードをかぶった義斬先輩は優希ちゃんと笑ってハイタッチしている。顔が見えないけど笑ってるとわかったのは口元を吊り上げていたからだ。
「かずちゃんがくるちょっと前ぐらいからだよ♪」
「声かけてよ!!」
「お前も気付いてただろ?一刀の勇気を確かめてたんだよ。まあ、残念な結果となってしまったわけだが…………」
「私の勝ちですな主」
「ちくしょうめ」
義斬先輩が趙雲さんに金を渡す。
賭けてやがったよこの人たち。
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