平安の都

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地に足が着いたのは、洛外の貧民街に着いてからだった。 担がれていたから地に足が着かないのは当たり前なのだが…担いでいる吉次も地に足が着いていなかった。 ――そう、飛んでいたのだ。 吉次は漆黒の翼を広げ、鞍馬山から飛び降りたのだった。 「…吉次とやら…お前、人間じゃないんだな…」 人生初の飛行に驚きを通り越して、半ば呆れてしまった。 「あれ?この姿で分かりませんでしたカ?最近は『鞍馬の天狗』なんて通り名で有名なんですヨ~!!」 「分かるかよ!?そんな中途半端に人間の格好しやがって。」 ハハ、そうですかねェ~なんて言いながら、自分の服装を見る吉次。 彼の漆黒の衣装は、日本のものというより、大陸伝来のもののようである。立てた襟刳りには細かい刺繍がなされ、袖が異様に長い。先程まで生えていた羽根はどこに隠したのか、背中は人のそれと違いがなかった。 ただひとつ。見た目でぎょっとしてしまう鳥を模した仮面を除けば、人間以外には見えないのだ。 「…で?俺を誘拐してどうするんだ?」 遮那王の中には、冷静に事態を飲み込もうとする自分がいた。 何かを思い出したかのように、吉次はいきなり遮那王の前にひざまずいた。 「遮那王様…いえ、牛若丸様にお願いしたきことがございマス。」 吉次の畏まった態度に息をのむ遮那王。身売りされると推測していたのに、意外な待遇に表情さえも硬くなる。 「…俺に?って何で俺の幼名を知ってやがる?」 幼名は寺に預けられてからすぐに捨てていたはず。とは言っても、乳飲み子の時に預けられたため、幼名を知ったのは遮那王でさえつい最近のことなのだが。 「それは、アタシが特殊な商人であり、情報をも商品として取り扱っているからデス。幼名ぐらい知り得るのは簡単なコト。」 吉次は、一呼吸を置いてまた語り始めた。 「…アタシは、ある方の命により、牛若丸様をお迎えに上がりました。牛若丸様にしかできぬコト…源氏の嫡流として源氏再興を成し遂げていただきたいのデス…!!」
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