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アイツとはさっきブリーフィングルームで会ったばかりだ。
15分ほど前──
上官は親指でアイツを指し示しながら言った。
「今日の任務はこいつと飛んでもらう」
するとアイツは、急に立ち上がると敬礼した。
「グレイ伍長です!よろしくお願いします!」
オレはアイツの挨拶は無視して上官に聞き返した。
「どういうことですか? アルはどうしたんです?」
「新人研修の一環だ。アルには事情を話して降りてもらった。
なにか不満でも?」
「ぅ‥‥い、ぃえ」
オレは思わず口籠もる。アルのニヤついた顔が浮かんだ。
新人のアイツは、口を真一文字に結んだまま直立不動で立っていた。
「キャリーの操縦技術は問題ない。シミュレーションで80時間はこなしてる。
たまたま配属予定だった第七パトロール艦隊が不可侵宙域で壊滅したのでこちらに廻ってきた」
上官は他人事のように続けた。
「今日の任務の詳細はこのファイルにある。それと、こいつを忘れるな」
上官は、小さな箱に入ったアンプルのようなものを見せて、オレとアイツに渡した。
これはまぁ、タイムカプセルのようなものかな。万が一宇宙で迷子になった時に使う。仮死状態になれる薬品が入っている。
音もない宇宙空間で、何日も平静を保って救助を待つなんて、どんなに心臓に毛が生えたヤツでも不可能だろうから。
運がよければ、いつかどこかで蘇生できるというわけだった。
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