9人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう」
気付いていたからか、案外軽く受け流せた。
重い声が出なかったことに安堵する。
言ってやりたい言葉は沢山あった。
だけど全て、脳味噌からすり抜けていく。
例えば、駆け引きの上手い女と付き合っても、ギャップの違いに落ち込むだけだ、とか。
お互い演技派なのだから、いつか本性を知ったときにどうなるかわからない、とか。
あぁ、駄目私、これじゃ全部嫌味にしか聞こえない。
「じゃあもうひとつ。
私のこと、ちゃんと好きだった?」
「愛して───た」
……即答した事なんか、誉めてあげない。
またはり倒してやりたいくらいだ。
ちゃんと過去形で言えたことだけ、心の中で誉めてあげる。
本当に、残酷な人間だ。
真夜ちゃんにじゃなく私に、一瞬にして変わった。
麻薬みたいな人。
彼を知れば知るほど離れたくなくなって、知れば知るほど彼が離れていく。
でもいいの、私は知り尽くした。
彼の癖も、笑い方も、ツボも、ほとんど。
最初のコメントを投稿しよう!