おかえり

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冷たい雨が音を立てて地面を叩く夜 携帯の画面に出た君の名前 一本の傘を持ち家を後にする 君を迎えに暗い道を、一人傘を差し駅へと向かう 道を照らす街灯の光が、駅へと続く… 駅に着き、雑踏の中で君を探す 見覚えの有る君の後ろ姿… 君は悴んだ両手を口元に近づけ… 白い息を吐き辺りを見渡していた 僕はそれを見つけ傘を閉じ、君に近づき声をかける 振り向いた君の顔は今も忘れない 髪は雨で少し濡れ、寒さで淡く桃色がかった頬… 髪から頬へと伝う滴 その滴が君を少し哀しげに見せた 不意に僕は、手で君の頬を拭った そして その手を、君の悴んだ手に伸ばした 冷たくなった君の小さな手… 僕はその手を、自分の頬へと押し付けた  君の体温と僕の体温が… 手と頬を通じて交わった 呆気にとられた君の顔 僕をじっと見つめる君の瞳… 瞳に映る僕の顔… その瞳に吸い込まれる感覚が、僕の心を静かに沸騰させた 次の瞬間 僕は両手で君を抱きしめていた 君を強くギュッと抱きしめていた まるで今の自分を忘れる為に、君を少しずつ暖めながら… 君が困った顔をしたから、僕は抱きしめるのをやめた 僕の腕から離れた君の顔は真っ赤に染まっていた そんな君の顔を見て、僕の顔も熱くなったのを覚えている 二人とも気まずくて照れくさかったね 冷静になった僕は傘を開き、君の手を握りしめ君を傘の下へと迎え入れた 駅を背に家に向かう帰り道、君と交わした会話は余り覚えていない でも あの時の握りしめた 君の手のぬくもりだけは 今もこの手が覚えている
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