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スミが墜ちたのは9月の頭…。
始業式の日の朝で、空は青く高く明るかった。
いわゆる“飛び降り自殺”というヤツで…校舎の屋上から跳んだらしい。
鳥にでもなったつもりだったのだろうか?
二学期が始まるというだけでユウウツなのに、うっとうしいこと…。
その日始業式の開始は遅れて、しばらく生徒たちは教室で全員待機を命じられた。
スミのクラスでもある3-Aの教室は初めはシンとしていたが、待ち時間が長引くほどにざわめき始めて、ついにはいつも騒ぐグループだけでなく静か系のヒトたちまでもが口を切りしゃべりだしてしまい…ものすごく騒がしいけたたましい状況になった。
「現場は血の海になっていたらしい」
とか、
「死体はバラバラになって散らばっていたって!」といった怪しいうわさが乱れ飛んでいたのだ。
4階建て校舎の屋上から墜ちてもバラバラにはならないだろう。
ポプラの木の枝や地面に痛めつけられて傷はつくかも知れないけれど、人体が切断されていたとは考えにくい。
こういうのを尾ひれがつくと言うのだろう。
待ち時間を有効に使いたい一部の生徒たちには迷惑千万な環境になっていた。
あたしも落ちつかない。
数学の問題集に集中したいところなのだが、耳に入ってくる話し声に…気がそがれてしまう。
「遺書は見つかったのかしら?」
隣りの席からサトミさんのつぶやき。
はあっ?
振り向くと目が合った。
あたしに返事を求めているらしかった。
「さぁ…」
と興味無い態度を示したら、サトミさんはメガネの位置を直して、
「アイダさんはいつも朝早くから来てるでしょう? 今朝、何か見なかった?」
とたたみかけてきた。
「はぁ?」
何を?
意味がわからない。
「あの…今朝はあたしも遅くなったから」
苦笑しながら応じる。
「何も見ていないの? …確かおうちは学校の近くだったでしょう?」
「ええ、まぁ」
近いけれど。
最短ルート…ヒト目を気にせず塀を二つ乗り越える度胸があれば…三分弱で登校できるだろう。
あたしは結構足も速いのだ。
あたしのうちの近くには校門がないので正規の通学路は遠回り。
「だったら悲鳴とか争う声とか物音とか…」
聞こえなかったか? って。
何が言いたい?
学校を“殺人現場”にしたいのか? あんたは。あほらしい。
あたしは開いていた問題集をことさらに音をたてて閉じた。
「何も聞こえなかったけど」
聞こえたとして…バサァッとかドスンとか
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