はじまりのはじまり

12/15
前へ
/15ページ
次へ
素直に(というよりむしろ恐怖で)顔を上げた英絵の反応も気にせず、むしろ更に頭を掴む力を込めて、諭すように話し始めた。 「いいか、よく聞けよ。……あんたは中学生の頃から大小構わずコンクール出まくって頑張ってきた。それは何の為?」 「……ウィーンに、行くため……」 「叔父さまに会うためなんだろ」 梓の言う叔父さまとは、離れて暮らす英絵の実父である。 ヨーロッパを拠点に活動している、プロのピアニストなのだ。 英絵の両親は、英絵が中学生の頃に離婚している。母親に引き取られた英絵は、それ以来父親とは一度も顔を会わせていない。 厳格な母親の目を掻い潜って父親に会うにはもう、海外への演奏留学として日本を出るしか、英絵には残されていないのだ。       
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加