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素直に(というよりむしろ恐怖で)顔を上げた英絵の反応も気にせず、むしろ更に頭を掴む力を込めて、諭すように話し始めた。
「いいか、よく聞けよ。……あんたは中学生の頃から大小構わずコンクール出まくって頑張ってきた。それは何の為?」
「……ウィーンに、行くため……」
「叔父さまに会うためなんだろ」
梓の言う叔父さまとは、離れて暮らす英絵の実父である。
ヨーロッパを拠点に活動している、プロのピアニストなのだ。
英絵の両親は、英絵が中学生の頃に離婚している。母親に引き取られた英絵は、それ以来父親とは一度も顔を会わせていない。
厳格な母親の目を掻い潜って父親に会うにはもう、海外への演奏留学として日本を出るしか、英絵には残されていないのだ。
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