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  ▼  夏休みと聞いて興奮しない学生には二種類いる。  学校が楽しいという人と、部活を休暇中みっちり組まれたせいでブルー入っている人だ。  そのどちらにも僕こと●は属していないから、やる気なさそうな担任がやる気なさそうに回す『夏休みに関するプリント』とやらをクシャクシャと丸めてごみ箱に放りながら学校が終わって夏休みが始まるのを今か今かと待ち侘びていた。 「あ~・・・それでは、委員長」  夏休みが始まる直前だからか、いつもより輪にかけてやる気がなさそうだった担任が、心底面倒そうに学級委員長を促すと、 「きりーつ、れーい」 とこれまた気の抜ける号令がかけられ、晴れて僕たちの夏休みは幕を切った。  そして、それに水を差す男が、一人。 「おーい、倉森~~!」  鞄を引っ提げてさっさと家に帰ろうと教室から出て廊下を歩き始めたと同時に、僕の苗字を呼ぶとても聞き覚えのある声が聞こえた。 「何さ」  僕は振り返らずにそう答える。 「今日もちょっと無愛想すぎるんじゃないかよ、倉森?」  声の主は、僕のつっけんどんな対応に大して目くじらも立てず受け流し、なお足を進めようとする僕を回り込むことで制した。  当然僕は足を止めて、声の主と向き合わざるを得ない。 「今日、一緒に帰ろうぜ、な?」  爽やかな笑顔でそう言うのは、さっき炭酸の抜けたコーラのような号令をかけた、このクラスの委員長だった。  ・・・・・・ビビり染め、とか何とかいう、染めてるのかそうでないのか断言しづらい茶色っ気のある髪をワックスで固め、腕まくりした長袖カッターシャツの胸ボタンを二つも開けて着崩して中の赤いTシャツを露出させている・・・・・・そんな男。  顔かたちの方は眉目秀麗で、身長も180cm近い。  男は身長が高ければ三割増しは格好よく見えるものなので、この男は文句無く格好いい。恐らく誰も異論は挟まない。  伸ばした前髪で顔を隠し、ただでさえ背が低いのに若干猫背で薄暗く生活している僕とは対照的な人間だった。
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