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「あ、ここまでだな」  委員長はそう言って、家の敷地と公道を隔てる腰ほどのアルミの扉に手を掛けた。  ふと、僕はあることに気付く。 「委員長、今日部活は無かったの?」  そう尋ねた僕に、委員長は少々呆れた顔を向けた。 「倉森、お前担任の話何も聞いてないんだな」 「悪い?」 「そう言うと思った」  単位だけ取ればいいと思っている僕は、少数派なのだろうか。 「これから一週間、校舎と体育館の改修工事をするらしいから、バスケ部とかはしばらく自主練ってことになるんだよ。コートもバスケットも無いのに、ドリブル以外に何練習すりゃいいんだよ、って話なんだけどさ」  肩を竦めて、ハァと委員長は溜息をついた。  それが結構、様になっていることを少し、いや大いに羨ましく思う。 「最後にちょっといいか?」 と委員長。 「何さ」 と僕。  委員長は思案する素振りを見せた後、扉の取っ手を弄びながら言った。 「さっきの例え話。お前はどっちなんだ? その、湧き水と大木の方なのか、それとも旅人と少年の方なのか」  実にもっともな質問に、僕は間髪入れずに答える。 「両方だね」  委員長は面食らったように目を見開き、しばし固まった後、眉を顰めた。  混乱している委員長相手に、僕は言葉を連ねる。 「敢えて言うなら・・・僕は湧き水と、少年だ」  困惑から復帰した委員長が再び、 「どうしてだ?」 と尋ねる。  そのちょっと真面目な表情に、僕は苦笑いを返した。 「旅人は湧き水が無くなれば間もなく死んでしまうけど、少年は大樹の影がなくても命に支障は無いからね」  踵を返す。  委員長をその場に残して、僕は陽炎の見えるアスファルトの上を自分の家に向かって歩いて行く。
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