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  ▼  ただいま、と誰も居ない家に帰宅を告げ、母が作り置いてくれたらしい昼食のおにぎりを食して制服からTシャツとジーンズに着替える。  制服のポケットから財布と携帯を取り出してジーンズの方に押し込む。  学校の鞄から必要な荷物を取り出してお気に入りのショルダーバックに押し込み、右肩に背負う。  そして外に出て、車庫にとめてある自分のマウンテンバイクに跨がり、僕は家を出た。  ジリジリ、と肌を灼く南中した太陽を背にしながら自転車を漕ぐ先には、青々とした小高い山がある。  見える山の姿が大きくなっていくと共に、周りの景色が住宅街から田園に移り行き、道路はアスファルトから砂地に変わって車体がガタガタと震えはじめた。  地方都市の郊外というのは得てしてこういうもので、街から少しでも離れるとすぐに田舎風景に襲われてしまうのだ。  ふと、その田舎風景の中、視線の先、遥か向こうに、白いワンピースと麦藁帽子を着けた少女の後ろ姿を見つけた。  間違っているかも知れないなんてちっとも思わず、僕は声を張り上げる。 「おーい、■ちゃーーん!!」  少女はピクンと肩を震わせ、麦藁帽子を抑えながらこちらを振り向く。そして向かってくる僕の姿を見つけ、この距離からも視認できる満面の笑顔で、 「●せんぱーーーい!!」 と僕を呼んだ。  それに応えるように僕はペダルを漕ぐピッチを上げ、十数秒としない内に■ちゃんの傍らに辿り着いた。 「よ、■ちゃん」 「一日の最初に会ったときは、おはようございます、ですよ。●先輩」 「夜でも?」 「夜でも」  月の見下ろす真夜中、『おはよう』と挨拶を交わす二人。・・・なんとも哲学的ではないか。 「ほら、●先輩、挨拶挨拶!」 「はいはい・・・おはよう、■ちゃん」 「おはようございます、●先輩」  笑っている■ちゃん。最後に会った日曜日での剣幕など、どこ吹く風だった。
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