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夏の山とは蟲との戦争じゃ。
昔僕の祖父さんが、ボソッとそう呟いたのを聞いたことがある。
そして僕はそれを身に染みてわかっている。
今目の前にしている、祖父さんの家で学んだからだ。
典型的な木造の日本家屋。小さな山のふもとにあり、歴史を感じさせる風貌だ。要は古臭い。
驚くべきことに、風呂がガスになったのはちょうど一年前のことであり、それまでは釜風呂が現役だった。祖母さんが僕の家に遊びに来て全自動風呂沸かし機を体験しなかったら、多分二人とも、どちらかがくたばるまで釜風呂を使っていたに違いない。
今時の爺婆はパソコンを使いこなすと謂うのに、どこまでもアナログな人達である。
「去年の夏と比べて、ここは全然変わってないですよ」
■ちゃんはそう言って、髪を梳いた。顔には微笑みが戻って来ていた。
「それだけが取り柄だからね」
僕は茶化しながら日本家屋へと歩を進め、鍵のかかっていない引き戸を開いた。
「祖父さーん、祖母さーん、お邪魔しまーす」
なんて適当に挨拶して、返事も聞かずにスニーカーを脱ぎ、家に上がる。
反応が無いところを見ると、大方祖父さんは山へ芝刈りに、祖母さんは川へ洗濯に、ってとこだね。
「じゃあ●先輩は桃太郎ですか?」
どうやら、さっきの言葉が口に出ていたらしく、■ちゃんがニコニコしながら聞いてきた。
「■ちゃんが桃姫ってことで手を打ってくれない?」
色白だしちょうどいいよ、と僕は■ちゃんの麦藁帽子を取り去って手に持たせた。屋内では帽子を脱ぎましょう。
「私、桃はあんまり・・・アレ、水っぽ過ぎるんですよ」
誰も桃の味の批評なんて聞いていないのだけれど。
僕はふぅ、と息をついて廊下を進む。■ちゃんは慌ててついて来た。
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