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 所謂エリートに分類されるビジネスマンの父と、父と同じ大学の出身で教育志向の高い母の厳しい目は専ら、上の二人よりやや出来の悪い兄貴に向けられており、その兄貴が今年受験生ということも相まって僕はかなりのびのびとした学校生活を送っている。  ・・・済まない。訂正を加えたい。  今現在に限れば、のびのびというよりムシムシだった。  はあ、と吐き出す息も苦しく、体全体がほてってしまい気怠くて仕方ない。  髪の毛と頭皮と脳細胞が、今にも蒸発してしまいそうだ。  ――――僕の街には、暴君・真夏がやって来ていた。  この街は、日本のうちではかなり南にある上に雨がほとんど降らず、そのくせ湿度は高いといういやらしい気候だ。  しかも今年はエルニーニョだかラニーニャだかで、猛暑なのだとテレビは喧伝していた。  そして僕はというと、特に温度上昇の激しい中心街にやってきていた。人もコンクリートもひしめいているここら辺りは蓋無しの五右衛門風呂を思わせる極上(獄上)の蒸し暑さである。  そこまで散々夏を貶すのであれば家に引っ込んでいろ、と世間に言われても仕方ないのであるが、哀しいかな僕にだって止むに止まれぬ事情というものがある。  勿体ぶらずに言うと待ち合わせ中というわけだ。 「11時まであと3分・・・ってところか」  左手首にはめた腕時計を見て、待ち合わせ時間より30分以上前であることを確認する。  早すぎるのではという謗りには断固抗議させていただこう。待ち合わせした彼奴はおそらく1時間は前に来ているに違いないのだ。  そういう奴なのである。
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