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財布の中身とメニュー表のグランドピアノケーキの欄を何度も交互に確認した後、うなだれて黄昏れて絶望していると、さっきの店員さんが至高のニヤニヤを見せ付けながら問題のケーキを持ってきた。
名前の通り、生クリームとチョコクリームを使って鍵盤を描いたケーキなのだが、その完成度が現実離れしている。何せ本物の鍵盤に紛らせても見分けがつかないとまで言われている代物なのだ。
僕も見るのは初めてだったが、その繊細さ故に思わず顔を近づけて凝視してしまい、■ちゃんに二度目の平手打ちを喰らった。
これをパティシエがその手で作ったというのだから、地域密着型喫茶店の商品らしからぬ値段も頷ける。
「いただきまーす」
それを何の風情もなく切り崩す■ちゃんを、僕が看過できるわけもなかった。
「こらぁ!!」
「ひゃう!? どうしたのですよ●先輩? はむはむもぐもぐ」
「そういうケーキはだな、こう・・・・・・もったいなさそうに食べるもんでしょ普通! 一個一個鍵盤の間区切ったりさ!!」
「ぱっくりもぐもぐごっくん」
「聞いちゃいない!」
僕ではもうこの子の教育は無理っぽいです。
「ふぅ~とっても美味しかったですよ」
「そりゃどうも・・・」
お代持ちは僕なのに一口も分けてくれないってこれ如何に。
「・・・もう一個」
「だめっ!!」
「いたっ! 痛いですよ!?」
上目遣いで無理なおねだりしてきた■ちゃんの額に、躾けという名のデコピンをプレゼントして差し上げた。
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