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錬金術……
古の時代より築き上げられてきた森羅万象の理を組み換える大いなる秘技。
だが、魔導技術の発達により、その術は忘れられつつあると言わざるをえない。
魔導とは錬金術の派生。それすらも時の流れにより封殺されたこのご時世、真なる錬金術師とは嘲笑の声と奇異の眼の対象でしかない。
「お前が頼み込んで頭を挙げぬと申すから態々謁見を許してやったと言うのに」
当然、錬金術師と言うだけで、その者の信用は堕ち、信憑性は零に等しくなる。
故にこの錬金術師がホルベリア大陸の中で最大の国土を持つ、ホルベリアの現国王との謁見の利を攫取する為に何れ程の労をしたかは想像に難しくない。
「王よ、後生の頼みです。
どうか……御聞きくだ、さい。
太陽は、必ずや……潰えるのです」
「まだ言うか!
貴様の戯言などもう聴きとうない」
「お願い、いたします。
今からでも、錬金じゅ──」
「ええい黙れ!
近衛兵! 其の瞞着者の頸を跳ねよ!」
直後、躊躇無く振り降ろされた鉞により、錬金術師は真紅の華を散らして事切れた。
それから3日後。
この国に新たな法律が施行される。 末代に至るまで曠古の悪法として子々孫々に語られる事となる法律。
『錬金術師取締令』
その内容は、錬金術の名を称する全ての者を捕え処刑し、錬金術に就いて記された全ての書物を焚書とする。というもの。
その施行域は王宮の書庫にまで及び、錬金術を例外無くその存在ごと歴史から抹消する為の法律であった。
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