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日が伸びてきたとはいえ七時ともなれば空も暗くなってくる。
遠くからのお囃子が、特設ステージで演歌を歌うおばさんの声と混ざって聞こえてくる。
石段を上ったところの古びたお堂には願掛けの鈴とさい銭箱があって、そのさい銭箱を覗きこむように、こちらに背を向けて綾人が立っていた。
「悪ィ、待たせたか…お前何してんだ?」
歩み寄りながら尋ねると、綾人は
「え、いやぁ…金が盗れないかと」
吹き出すのさえ馬鹿らしくなってしまった。
「まずはあのお好み焼き屋、いくだろ?もういい時間だし」
「おー」
のんびりと返事をしたかと思えば、さっさと階段を降り始めるのである。
綾人と和己はいつもこんなやり取りである。綾人ははしゃぐ役目。和己はそれにブレーキをかける役目。でも実は、変に真面目な和己を笑わせて和ませるのも綾人の仕事だったし、そんな綾人とだから今日まで親友を続けてきたのだ。
「おい、ちょっとくらい待てよ~」
引き止めるように手を伸ばした、その瞬間だった。
目の前の綾人が
消えた。
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