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雪の舞う夜空に、月と星が輝く。あまりに幻想的な光景に、自分という存在があやふやになってしまいそうになる。
時刻は12時ちょうど。
そろそろ約束を忘れられてるんじゃないかなんて心配し始めた私の頬に、何か熱いものが当たる。
「だーれだ?」
「ひゃうっ!」
振り向くと、そこには両手に缶コーヒーを持った満面の笑顔の友人がいた。
なんの悪びれもない笑顔で「驚いた?」なんて聞かれてしまっては、もう怒る気も起こらない。
おかしいな。30分も遅刻してーってお説教してあげるつもりだったのに。
「遅れてごめんね。これあげるから許して? ね?」
そう言って左手のコーヒーを私に渡してくる。
この笑顔はずるい。いつもこの笑顔でうやむやにされてしまう。
私はせめてもの抵抗に、無言でコーヒーを奪い取ると、目的地に向かって歩き出した。
しかし向こうは私が怒ってないことがわかっているらしく、ニコニコしながら私の後についてくる。
彼女が笑う。
私も笑う。
2人分に増えた吐息が、白く濁り空へと消えていく。
吐息はまた一瞬で消えてしまったけれど、
もうそこに儚さは感じなかった。
終わり。
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