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「おい、こんな簡単に入部してくれる奴ならなんで今まで放っておいたんだよ?」
俺は、稲葉に見えないように美里を後ろに向かせ、コソコソと耳打った。
「うん、まぁ…わからない?」
「何が」
「美里ちゃん。何コソコソ話してるんだ?もしかして俺とのデートプランかな」
「鬱陶しいでしょ。こいつ」
美里は肩に手を回して、美里を包み込むようにしている稲葉の顔面の丁度ど真ん中に肘鉄を決め込んでいる。
ジャストミート。
「成る程」
確かに、鬱陶しいなぁ、それは。
同じ部活となると、活動日が通常日曜以外全部ある軽音部だと、ほぼ毎日。
7日中6日会う事になる。
それはもう、ストレス以外の何物でもないだろう。
それを補って余りある程の戦力では、あるけれど。
こんな状況だし。
「さて、次は長嶺さんね」
「み、美里ちゃん。長嶺もその…入部させるのか?」
「ん?そうだけど?なんで?」
「え、いや、あいつは…色々とマズイ奴じゃん?」
「大丈夫よ。『総合部活戦争』の事を話せば入部してくれる事間違い無しよ」
「…へぇ?そう」
心なしか、さっきまで至福に満ちていた稲葉の表情が、曇った。
「さ、行くわよ」
先にズンズンと歩いていく美里の背中を見ながら後を付いていく稲葉に、俺は話しかけた。
「なぁ、長嶺ってそんなに怖い奴なのか?」
「あぁ?チキンがうるせーよ」
なんだ、この態度の違いは。
お前はあれか。
二重人格者なのか?
「心なしか俺にはお前が長嶺を恐れているような気がしてな…気のせいだったら…すいません」
さて、どんな暴言が返ってくるのかと思いきや、
「…ふ、案外勘の鋭い奴じゃねーか…」
と、あっさりと稲葉は長嶺に対して抱いている恐怖心を認めた。
「あの女は…危険だ。美里ちゃん以上に…な」
「危険…?」
それよりも、お前から見たら美里も危険なのか?
まぁ怖いもの知らずという点では、確かに同行者としては畏怖の対象だが…
「…でも女なんだろ?長嶺は」
「…長嶺は、別に喧嘩が強いとか、そんなんじゃない」
まぁ喧嘩が強いなんて事は考えもしなかったよ、そりゃ。
あくまで、女の子な訳だし。
なら、稲葉がそこまで怯えるのは何故なんだ?
「…長嶺は、意味不明なんだ」
「…ん?」
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