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特に部活に参加していた訳でも無く、ただ何も無い毎日を過ごしていた俺は、彼女・天月 美里の自分の音楽を聞かせたいという熱心な気持ちに負けて、彼女と共に、軽音部を創部する訳となったのだが…
今思えば、あれは人生で数回する重要な選択を、ミスってしまったのではないか、と思う。
部長である美里には、パートというものはない。
ギターが出来るとか、出来ないとかそういう問題では無く、楽器そのものを1つも持っていない。
…持っていた事が無いのだった。
彼女の言い分としては、自腹で楽器を買うのは嫌だと。
部費でなければ買わないと、何とも憎たらしい事を、可愛い顔から真剣に言うのだから、もう俺は怒りを通り越して呆れていた。
この同好会といっても過言では無いこの軽音部に部費というのが存在する訳も無く、現状から言うと今からどうにかしてこの軽音部に部費を大量に入れないと、 美里に楽器を所持させる事すら不可能なのである。
正直の所、彼女のこんな意味不明の話にも、俺が素直に甘んじているのは美里の家庭事情というのは決して好ましくないようで、経済面も安定していないという事だから、馬鹿らしいと思う反面、仕方ないという感情もあるからだ。
なら、バイトでもしろという話なのだけれど。
そんな簡単に、部費なんて入る訳は無く(しかも高額)、彼女に楽器を持たせるの不可能に思われたが、ある日、その不可能はまさに反転したのだった。
「総合部活戦争?」
聞き覚えの無い話を、同級生であるバスケ部・椎名 春間から聞いたのだ。
椎名は、水道の蛇口を捻って、水を口に飲んだ。
「ん。総合部活戦争」
「…聞いた事ないな。なんなんだそれ」
「んー、俺も詳しくは知らねぇ。なんか今年が初めての行事らしくてな」
「総合部活戦争…ねぇ」
「なんでも噂によると、この学校の部活全部で闘って、優勝したとこが部費として一億貰えるとからしいけど」
「い…一億!?」
あくまで噂な、と椎名は額から流れる汗を首に掛けている純白のタオルで拭いながら言ったのだった。
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