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「誰だよ」
「聞きたい?」
「焦らすな!」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ」
こんな状況で落ち着いてなんていられるか!
大体、アテがあるっていうのが、今の俺には一番困る。
俺と違って、人脈の広い美里だ。
アテが無いなんて事を考える事自体が、間違いだったのだけれど。
「1人は同級生の稲葉君、そしてもう1人は同じく同級生の長嶺さん。とどめに後輩である高木」
「な…なんてラインナップだよ!」
稲葉、長嶺、高木といえば、この学校では…いや、地域単位で有名な(悪い意味で)奴らじゃないか。
そんな連中にも接触があったのかお前は。心底、お前の人脈・交友関係・コミュニケーション力は凄いと思うよ、うん。
確かに、その3人が素直に協力してくれるというのなら、勝利のイメージが湧かない事も無い。
「じゃあ早速交渉に行きましょう」
「交渉って…3人共帰宅部だよな?」
「確かに3人共れっきとした帰宅部だけど、稲葉君ならほら、あそこ」
美里が指を指した方向に、俺が目をやると、校舎の裏側。
つまり、校舎裏から火事が起きているのか!?と疑問を抱えてしまうほどの白煙が、漏れ出していた。
「・・・・・」
「稲葉君は夏休みだろうと自分の縄張りであるあの校舎裏を守る為にしっかり登校しているのよ」
「それは最早真面目過ぎなんじゃないか!?」
稲葉君。
フルネームは、稲葉 太市。
地元では結構有名な不良で、その鋭い眼光は地元のうるさい犬をも黙らせるという。
俺もたまに廊下で見かけるが、かなりのヘビースモーカーらしく(高校生にヘビースモーカーという表現を使うのは些かよろしくないが)、煙草を3本同時に吸って歩いていたという記憶がある(その次の日に稲葉は停学になっていた)。
誰かとつるんでいる訳では無く、いわゆる一匹狼だ。
「さて、行くわよ」
「おいおい、やめろ。殺されるぞ」
「うるさいわね。アンタ本当にチキンね」
「あ…あぁ!チキンさ!それが悪いってのか!?」
「別に悪くは無いけどダサいわよ」
「ぐっ…」
言い返せなかった。こいつはここぞとばかりに人の痛い所ばかりを突いてくる。
「…一応言っておくけど、稲葉君はかなり良い子よ」
美里はにこりと笑顔を浮かべると俺の手を引っ張って、校舎裏へと向かった。
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