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校舎裏へと向かうと、コンクリートの地面には煙草の吸い殻が大量に捨てられてあった。
これが縄張りか。
こんな汚い所わざわざ警備しなくても誰も来ないと思うけどなぁ。
「稲葉君」
目をやると、白煙の中にうっすら黒い影が見えた。
―…稲葉だ。
「あぁ?」
図太い声が白煙の中から聞こえてきた。
「稲葉君。あたしよ。天月よ」
「…ん、ああ。美里ちゃんか」
「み…美里ちゃん?」
「おぅ!?誰だそこにいるのはぁっっ!?」
「う…うおぉお!?」
いきなり白煙の中から飛び出てきた太い腕に胸ぐらをしっかり捕まれて、そのまま俺はフェンスに叩きつけられた。
これだけでわかる。 こいつのパワーは、やはり桁違いだ。
「す…すいません!俺はこ…この美里ちゃんに連れて来られただけです!」
「軽々しく美里ちゃんと呼ぶなぁ!!」
は…はぁ!?
軽々しくって…ならお前は美里とどれだけの関係なんだよ!?
俺は少なくともお前よりはこいつの扱いにくさを承知しているつもりだ!
「落ち着きなさいって」
「む…美里ちゃんがそう言うなら」
俺の胸ぐらを掴んでいた手の力が次第に抜けていって、離れた。
「大丈夫?」
「あ…ああ…」
「紹介が遅れたわね。この人は凪君。凪 明人君。あたしと同じ軽音部の部員よ」
「軽音部の?」
「そ。こんな情けない男だけれどね」
「確かに。美里ちゃん、こんなチキン野郎さっさと退部にさせちまいな。俺が代わりに入ってやるよ」
「まぁ!稲葉君が代わりに入部してくれるなら明人なんて退部にしてもお釣りが来るわ」
「来ねぇよ!!ってか散々に言いたい放題言ってんじゃねぇよ!!」
これは一種の苛めではないだろうか。
「そんな事よりも」
そんな事よりも、ってそんな簡単に今の話に決着を着けるな。俺の存在価値の重要性を疑うという重要な話を「そんな事」って簡単に話を進めるんじゃない!
「どうかしら、稲葉君。軽音部に入ってくれない?」
「いや、美里ちゃんのお願いならね、仕方ないよね。こんなチキンに任せてられないしね。是非入部させて下さい」
二つ返事でOK…と、勢い的には二つ返事だったけど余計な装飾が多すぎて二つ返事じゃ済まなくなってるよ、お前。
―…にしても案外簡単に入部を受理したものだな。
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