シュルームの向日葵

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「ここは何処?あなたは誰?」 と世間知らずのウルブスの王子、フェデリコは色を失いつつある乾いた唇を動かして尋ねた。 喉がからからだった。 それでも、ウルブスの王家に名を連ね、マスラオネから武術や兵法を習った彼は、まず身辺の事態の把握に努めたのだ。 そう彼はぼうっとした頭で考えたが、フェデリコのような立場に置かれた場合、大概そう尋ねる。 ここで、マスラオネの教育が身に付き始めている、と考えてしまうのが、世間知らずのフェデリコらしいところであった。 この物語ではフェデリコのこの世間知らずであるという事実が重要になる。 この物語を男女の恋心と権力者を倒す事以外の目的で楽しもうとするなら、或いはこの物語から恋は人を成長させ、殺しもするという以外の事を学ぼうとするなら、時には世間知らずである事も悪くはない、という一点に尽きるだろう。 さて、ウルブスの王子の問いにシュルームのサラフィアはどう答えた。 「私の村から少し離れた森の中です。私はサラフィア。あなたは?」 と親切にもフェデリコの耳元でそう答えた。 これもサラフィアの世間知らずの故である。 もし、フェデリコが邪な心を持った男で、そうしてサラフィアが近づくのを待っていたら? そんな行き当たりばったりの賭けをするなら、町で娼婦を買うだろう? そうかもしれないが、そうでないかもしれない。 中には物好きもいる。 が、幸いフェデリコは純粋な男だった。 サラフィアの甘い香りと優しく囁く声に擽ったそうにしただけであった。 この時、サラフィアは手傷を負って倒れている自分より年上であろう少年に、可愛らしい、という印象を抱いた。 それは、婦人が無知な男に夜の床で抱く感情と同じ、支配的な印象だったのが、サラフィア自身は気付いていない。 やがて、彼女は彼の虜となり、彼に支配されるような日々を送る内に、初めに自身が抱いた征服欲ともいえる感情を忘れてしまった。 尚、ここでいう支配とか征服欲とかいったものは、一般的に解釈される肉体的なものとか、そういったものではない。 さて、シュルームの向日葵の言葉にマスラオネの愛弟子は「私の体は酷く傷付いていますか?」と更に問いを重ねる事で応じた。 小麦色の肌の美しい少女は、銀色の髪の少年の無礼に気づきもせず、少年の体を若干の恥じらいをもって仔細に見つめた。
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