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「おはよーっす」
教室の扉が開いて、有実が入ってきた。
僕は縋るような視線で彼女を見たはずだ。
昨日まで、僕の恋人だった有実の隣には、背の高い知らない男の人が居た。
「玉田くん、ここまででいいよ。また放課後ね」
そう言って、有実はその人にキスをした。
僕に見せ付けるかのように。
そして、相変わらず呆然と立ち尽くす僕の存在を、道端の石ころだと思ってるみたいに完全に無視して、通り過ぎ、自分の席へと座ると、隣のクラスメートとにこやかに談笑を始めた。
声をかけるなんて、そんなこと考えられないくらいに、僕はうちのめされていた。
少しだけ遅れて、真実が教室へと入ってきた。
「真実――」
僕は、怯える声帯になんとか力を込めて、そう声を出した。
けれど、その声が彼女に届く前に、彼女の周りには何人かの女の子が集まっていった。
確か、あいつらは昨日まで、真実をいじめていた連中だ。
けれど、そんな出来事はなかったかのように、彼女達と真実は、笑顔で挨拶をしていた。
一瞬だけ真実と僕の目が合ったけれど、彼女はすぐに視線を逸らすと、また女の子達との会話に戻っていった。
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