第一章

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楠木が携帯を取り出す早さは、俺が冗談だと告げようとするより早かった。 「あぁ、ばばあ? 俺モンゴル行ってくっから金寄越せ。あぁ? んなもんち○こ切りに行くからに決まってんだろーが! あーうぜえ。黙って金寄越せよ。そうだな、300万くらい。余裕のよっちゃんイカだべ? ああ!? ふざけてねーし! てめぇ、言うこと聞かねえと俺銀行強盗してやんぞ!? はっ…泣き真似したってバレバレなんだよ糞ばばぁ!」 俺は慌てて携帯を楠木から取り上げると、受話器に向かって叫んだ。 「あはは! すみません。間です。いやあ、演劇の練習みたいで!! ええ!! ええ!! 本当に!! すみません!! それでは失礼します! 心さん!」 ため息をついて、通話を切った。 「ちょ、先輩何してんすか。まだ話は…」 「貴様は冗談も分からんのか! 心さん泣いてたじゃねーか!」 「ああ、良いんです。うちのは泣くのが趣味なんですよ。涙腺にホース繋いでおけば塩湖ができるくらい」 俺は頭を掻き毟りながら、さっさと歩き出す。 「え、先輩、何怒ってるんですか。俺は別に女になったって全然いーすよ」 後ろから焦ったような声が追いかけてくる。俺は言い放った。
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