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「ひいっ!!! なんなんだよおめーは!!」
「誰だお前はってですか?そうです、私が先輩の楠木です」
「良いよ! 俺のじゃなくて良いよ!」
「くーすのーきくんっ」
楠木が差し出そうとするカッターナイフを俺が拒否し続けていると、やはり後ろから声が掛けられた。
明るい声。日溜まりのような。でも、その実溜まっているのはヘドロのような。
現実。汚い。裏切り。
「あ、これはすみません。ええと、どちら様でしょう」
俺は決して後ろを振り返らないようにする。
出来れば耳にガムテープを四重に貼りたかった。
「ちょっとー。それ何かの冗談? 私、有実だけど」
「あ、生理不順さんですか」
「はは……。相変わらず面白いね。今日も可愛いよ楠木くんは」
「いえ、先輩ほどじゃありませんよ」
「またまた、嬉しいこと言ってくれるよね。今度デートしようか? ねーねー、それより一緒にガッコ行かない?」
楽しげな声。
どこか嬉しそうな、それでいて媚びる様な女の声。腐りすぎた果実の甘さみたいに。
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