第一章

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不快。嫌悪。心が冷えていく。 それだけなら良い。例えるなら真冬のドブ川だ。 冷たい上に悪臭を放っている。心が次々に防災壁を降ろしていく。 遮断する。切断する。 切り離せ。思い出。 過去。伸ばした手。 「あはは。おはようございます。有実さん」 「おはよー。今日も良い天気だよね」 俺の存在など、まるで視界に入っていないような無遠慮さ。 嫌がらせだろうか?  だとしたらあまりにも馬鹿馬鹿しくて下らない。 むしろ哀れだとさえ思う。この女はまるで成長してないんだ。 「わりい、俺先行くわ」 楠木に声を掛ける為に振り返った。視線がぶつかる。 澄川有実。幼馴染で腐れ縁。双子の片割れ。 言葉だけ聞けばバタークッキーの甘さだが、俺と奴との間にはクランベリーソースよろしい甘酸っぱい愛憎模様も、絆も結婚の約束なんてものも無い。 見渡す限りの永久凍土。たまに乾いた風が吹くが、それは不快になるだけだ。
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