第一章

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信じれば裏切られる。踏み込めば蹴落とされる。 現実は一見砂糖菓子のように甘いが、匂いに釣られてかじってみれば、それは砂の味。 歯の隙間に挟まって、ジャリジャリと嫌な音を立てる。 見返りを求めないで友達に、恋人に、他人に手を差し伸べられる人間がこの世の中何人居る? トキの飼育に莫大な予算を使っている暇があったら、国はそういう人間こそ保護するべきなのだ。 何故か。そういった人間は大概そうでない人間に寄生され、吸い尽くされ、雨の中に取り残され、ボロ布一枚纏って佇んで、気違いのようにそれでもヘラヘラと笑っているからだ。 我ながら穿った見解だとは思うが、嘘と偽善で今日も世界が平和であるという事実は曲がらない。 記憶は無いが、初めて俺の網膜が色彩を捉えた時、暖かな景色を切り取った時、この世界はきっと美しく見えた筈だ。 その美しさに、乳児の俺は笑っていた筈だ。そして泣いた筈だ。光の眩しさに。 壮絶な過去があった訳じゃない、ごくごく平凡に生きてきた。 こんな風にひねくれた妄想オタクになってしまったのは、きっかけはあったが、大したものじゃない。 伸ばした腕が、その意味が、全否定されただけだ。
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