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「はざま…すぐる…っと。んあ? 愛称まで付けなきゃいけねえの? んー…無難なとこで、すーくん。すーちゃん辺りが妥当だろうな。これでよしっと…」
「すーくん! おはよう~!」
明るい少女の声がする。
どんよりとした大気さえ垂直に突き抜けていくような、世間の煩わしい事情などとはまるで無縁な、無垢で、温かで、透き通った声。
仄暗い安アパートの八畳の部屋に、それは恐ろしく不釣り合いに響いた。
だが、そんな少女の声に俺は応えることはない。
少女は続ける。
「もうっ! すーくんたらいつまで寝てるの? 早く起きないと遅刻しちゃうからね!」
少女は少しだけ顔をしかめ、頬をぷくっとピンク色の水風船のように膨らませた。
俺は声を発する代わりに、マウスを持つ左手の人差し指に力を込める。
カチっという機械的な音がした。
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