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魚屋さんから、鯛を一匹拝借。
かけてかけて。
近所の神社の草むらで、私は鯛と向き合った。
鯛のうろこを、爪ではがしていく。
パリパリ。きらり。
うろこは、あらぬ方向にも飛んできて、ちょっと困る。
ついでに、くわえてきた時に口の中にもうろこ。
ぺっ、ってする。
鯛を半分たべた頃。
にゃー。にゃー。
と、子猫が6匹やって来た。
にゃー。
にゃー。
にゃー。
にゃー。
にゃー。
にゃー。
鯛が食べたいにゃー。
と、寄ってきて。
後ろからやって来たお母さん猫に、にゃ!とたしなめられていた。
お母さん猫は、多分わたしと同い年くらいだ。
わたしは、半分の鯛からそっと離れた。
「どうぞ」
「いえ」
「わたしはもう、おなか一杯ですから」
「ありがとうございます」
実際には、一言も会話してなかったりするのだけれど。
わたしと母猫さんは、そんな会話を目でした。
母猫さんは、ぺこりと私に頭をさげると一口鯛を食べた。
そして、子猫たちに「食べていいわよ」というようにうなづいた。
子猫たちは、うれしそうに残りの鯛を食べていく。
きっと、あっという間になくなっちゃうわ。
そう思うと、食べ過ぎてしまった気がした。
はむ。はむ。はむ。
はぐ。はぐ。はぐ。
子猫たち6匹は、茶色やまだらなしっぽをゆらゆらさせて、鯛をたべてる。
母猫さんも、ちょっと食べている。
わたしは、そっとその場を離れた。
鯛なんて、うろこが多くて邪魔だから、本当はわたし嫌いなのだけれど。
人間の(とくに魚屋の主人)が、
『いや~!奥さん。これ!ほら、めで鯛!だよ!お祝いには、やっぱり鯛だね!めで鯛だ!』
なんて下らないことを言って主婦たちに鯛を売ったりしてるから、実にバカにしてたのだけれど。
やっぱり鯛は、めで鯛のか。
母猫さんと子猫たちには、なんとなくお似合いな気がした。
おわり
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