第1章 春色の手紙

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「まあ、飲め」 佐伯さんがそう言って私の前に珈琲を置いた。 その表情は普通で、責めるでも慰めるでもなかった。 「……ありがとうございます」 「まずっ……」 彼はそう言いながらも、その香りのしない作り置きの珈琲を飲んでいた。 「この珈琲の業者、替えた方がいいんじゃないか?」 彼は私を見たが、私がただその珈琲を見つめていたので言葉を続けた。 「でも、作り置きじゃどこも一緒か……」 窓の方を見て言ったその台詞は、会話の舞台に載らずに流れていった。 しばらく沈黙が続いた。 彼はブランドものの細目の縁なしメガネをかけ直したりしていた。 「夜梨(より)……」 彼は短い髪をかきながら言った。 私はやっと、彼に顔を向けた。 「何に悩んでるんだ?」 「……いえ、別に」 悩んでいる訳じゃない私はそう答えるしかなかった。
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