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細く縦に長い取っ手を手前に引くと、カランと少し乾いたような軽やかな音を立てた。
ドアの上に小さなベルが付いている。
「いらっしゃい」
その軽やかな声に右側のカウンターを見ると、マスターらしき細身の男性が、イブリックで温めた珈琲をカップに移しながら細い眼で微笑んだ。
彼は長髪を後ろで縛って、白いシャツにネクタイをして黒いエプロンを付けていた。
すぐ横を見ると、小柄でふくよかな一人の老女が、一つ置かれた鉢植え越しに、窓から外を眺めていた。
その顔は、マスターと同じ様に見えないくらい目が細い笑顔で、普通に話してもそのままの笑顔なんだろうなという感じだった。
他にもまばらにお客が座っていた。
カウンターの端っこでは、20代くらいの茶髪で小柄な女性が座って何かを書いていた。
「どうぞお好きな席に。テラスも空いてますよ」
「はい」
30代半ばに見えるマスターは、今淹れた珈琲をトレーに載せて老女の方へ運んで行った。
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