第1章 10月

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「あら?今日は早いのね?」 母がテレビの画面から視線を外さないままそう言った。 「うん、会社をクビになったから」 「あら、そうなの?」 母はチラリと私を見たが、ちょうどラストのいい場面みたいで、また画面に視線を戻した。 「うん」 「世の中不景気なのねぇ」 「そうみたいだな」 父も囲碁の本から視線を外さないままそう言った。 「じゃあ着替えてくるね」 「今日はお寿司でいいかしら?これ見てて何の用意もしてないのよ」 「いいよ~」 私は軽く微笑んで居間のドアを開けると、玄関の手前から左側の階段をトントンと軽やかに上がった。
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