第8章 春 その3

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開場して、お客が入って来たので、私達は物販席に移動した。 最初のベイムがステージに出てきた。 まずは渚さんが真ん中に立って、美穂さんがキーボードの前に座った。 渚さんはふわふわの茶髪で、美穂さんは黒髪。 着てる服も違うセンスだけど、二人がペアだというのがわかるのは不思議だった。 美穂さんがキーボードを弾き始めて、渚さんの歌声が響き始めた。 澄んでいるけどコクのある声。 部分部分で美穂さんがハモりを入れる。 美穂さんも澄んでるけど、渚さんよりさらりとして、高音域系。 ハモり過ぎず、適度な二人のハーモニーが心地良い。 2曲演ったところで、二人は交代。 「じゃあ、私は楽屋に入ってますね」 智亜美さんが言った。 「うん、美穂さんのも聴いたらすぐ行くね」 「はい」 智亜美さんは音を立てない様に椅子を引くと、そっと出て行った。 玉江さんが私と彼女の間の席をチラッと見たけど、そのままテーブルに頬杖付いてステージを見ていた。 そんな彼女の気持ちも何となくわかる。 まだそこには「智亜美さんがいる」から、こっちに詰めたりしない。 今日は彼女も身内なのだ。
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