黒を這う手、掴むモノ。

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梅雨も過ぎ、降り注ぐ陽射しが柔らかいものから刺激を帯だした季節。 襦袢がしっとりと汗を吸い、重みを増す。その重みが気だるさを一層強いものに変えてくれる昼下がり。 私は一人、屯所内を歩いていた。 「氷…食べたいなぁ」 風通しの悪い屯所内の、少しでも涼しい場所を求めて徘徊していると、縁側に腰掛けている後ろ姿を発見。 「斎藤さん?」 「…柊か」 声をかけると、相変わらず表情筋を使い忘れた顔で振り向いた。 いつもと変わらない斎藤さん。だがその手の中には斎藤さんが持つには珍しいモノが握られていた。 「それ、どうしたんですか?」 「…覚えていないのか?」 「クナイ…ですよね?私のじゃないですよ?」 「…この前の買い物帰りに、お前の足を傷付けたモノだ」 「…………ぁ」 数日前に行った買い物帰りに、私と斎藤さんはゴロツキに囲まれた。 その際離れた場所から光るモノが斎藤さんめがけて飛来したが、運良く気付いて斎藤さんを庇えた。 が、自分自身は庇えず、足に怪我を負ってしまった。 その時の武器が、今斎藤さんの手の中にある。 持って帰ってきていたとは知らなかった。
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