黒を這う手、掴むモノ。

13/39
4947人が本棚に入れています
本棚に追加
/709ページ
「厠に行ったんじゃなかったのかい?」 「っ!?」 部屋が急に暗くなったわけじゃなく、いつの間に忍び寄ったのか、背後には先程まで私がお酌をしていた男がいた。 ……おっとぉ? もしかすると私、ちょっぴりしくりましたかね?地団駄踏んでるところ、見られた? 私が焦り気味に男を凝視していると、男はフワッと微笑んだ。 「そんな警戒しなくていいよ?僕は君の敵じゃない。何もしやしないよ」 ……何だろ?すっごい落ち着く。 男の容姿は普通なんだけど…この声。 高すぎず低すぎない、柔らかな声音。耳に心地よくて安心する。 ……さっきまでの緊張感が嘘みたいに解れて安心したせいかな。 なんだか… 瞼が…… ………… ……スゥ…スゥ… 最後に覚えているのは、畳の感触ではなく、大きな掌とやっぱり良い音の笑い声だった。
/709ページ

最初のコメントを投稿しよう!