月のある深い夜

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 ワシは、庵の前に立つと、樹の影に話しかけた。        「今日は済まなかったの。夏凛(かりん)。危なくワシの正体が肉屋にばれるところじゃった。」        「いいえ。ああいうの得意ですから。」        樹の影から出てきた人物は、お茶屋の女主人だった。        「天狗様。宗が、薬嗣の守護に来たなら、私はお役御免ですね。天界に帰ります?」       「そうじゃなあ。いくら、前任の夏神とは言え、何かと忙しい身じゃろ。個人的には、いま少し残って欲しいのじゃが。……どうじゃ?」    夏凛は小僧が、人間界に修業に来る際に、万が一を考え、ワシが頼んで近くから、小僧を護る為に送り込んだ弟子の一人じゃ。  白狸村の件で、連絡がとれなくなっても、私の頼みを守ってくれていた。       「あははは!!そんな、畏まらなくても良いですよっ!私も、こちらが結構気に入ってるし、もう暫らく居座る事にします。……今夜は月明かりが綺麗だ。………天狗様。お逢いになるんでしょう?これ以上邪魔するのも悪いんで、私は失礼しますね。じゃあ。」        夏凛は言いたい事を言って、さっさと消えた。昔から、かなわんのー?あやつには。       「さてと……。」        ワシは庵の格子を全て、全開にすると、畳の上に横たわる。         「今宵は満月。あやつに逢うには丁度良い。」        ワシは目を閉じると、意識を飛ばした。      
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