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今はまだ弾ききっているものの、攻勢は明らかに少女側であり、形勢が俺に向くことはなさそうだった。
弾き、弾き、と粘り粘っているものの、実戦経験が無い俺にはこの少女に勝つための打開策が全く見えなかった。
そんな、このまるでペースを掴めない、単なる弾き合いを止めたのは、当然と言うべきか、少女の方だった。
「――――――――」
彼女が、何と言ったかは分からない。
単なる、沈黙だったのかも知れない。
そんな一瞬と共に、
「……ぐ……」
密接しそうな接近と、キッツイ左膝蹴りが来た。
「飽きたわ」
着地と共に少女は一歩下がり、俺の右肩を蹴り跳ばす。蹴られた側である俺には、いまいち転がった距離が判らないが、三~五mは無様に転がったのではないかと思う。
「う、ぐ……ぎがぁ!!」
跳ねるように転がり、上向きで倒れた。
あちこちが擦り切れた腕で立とうと試みる。
「う……ぐ……っ」
しかし、胴を思い切り踏まれ、頭を強打。
――……あー、クラクラする……――
弾き合いと言ったが、実際は斬撃を弾ききれず制服はズタズタ。
今、俺は体勢から姿から、何をとっても完全な“負け犬ちゃん”だった。
――ここへきてようやく、余裕を持って少女の顔を見ることができた。死に瀕しているクセに『余裕を持って』なんざおかしな話だが……――
整った、線の細い、しかし芯を確立していることを窺わせる顔立ち。
つり目がちの、何か別の色の入った目。
風に対し、不吉にそよぐロングポニー。
「づ、ぐ……」
「動かないで。動けないでしょうけれど」
冷ややかな、何も入っていないような、声としてだけの声、そして戦闘開始時とは真逆、闇しかない、虚のような眼が告げる。
「さようなら、それとも、おやすみなさいの方が、いいかしら?」
剣先が首に合わせられる。
防ぐにも、腕は動かないし、避けるにも、胴が動かないので首をずらすことができない。
それでも、俺は眼は閉じない。
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