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「剣……どけろ。ケータイが取れない」
止めていた手が離れ、少しだけ、剣が上に退く。
ケータイを取り出し、確認してみると、……爺からだった。
…………通話ボタンプッシュ。
『おう、釵!』
「…………」
相変わらずの、活きのいい、渋い声が響く。
『返事せんか!』
「…………」
『まあええわ。そろそろ来客があるじゃろうからな、話はその二人から――』
「――すぅ、遅ぇ!!」
思い切り怒鳴った。
それはもう、一年に一回レヴェルと言って相応しい程の叫び。
『む、もう会っておるのか?』
「やかましい。今日来るんだったら、せめて朝には連絡しやがれ」
『えー、だってぇ。鎬君と話すの恥ずかしいし……』
気色悪っ!
厚紙で首切って死ねばいいのに……。
「てめぇ、次会った時ぜってぇ殺す。てめぇのお陰で絶好調に殺されかけたんだからな」
もしくは、現在進行形。
『ふむ、“鎬”じゃしの。じゃ、そゆ訳で』
「オイコラジジイ!!」
言った時には既に切れていた。
「……………………。で、説明は?」
「私たちはお前の家の居候になる」
……それだけかい。
簡潔だが。
確かに簡潔ではあるが。
……はぁ。
ヤな日だ。
「断る権利は?」
「これは、決定事項よ」
「……」
転(くるり)と踵(きびす)を返し、去ろうとする少女。
「待て」
その背中に、声をかける。
「何?」
かなり無防備なことだし、愚劣な選択かもしれない。
だが俺は、何故かこうするべきだと感じた。
「ほらよ」
鍵を投げ渡す。
それに、この二人は俺を置いてさっさと行ってしまう漢字なので、扉ブチ壊されそうで怖い。
「話は帰ってから聞く。住所くらい探せ」
「……」
一瞬、あの嫌な眼になる。
「今、分かったわ」
そう言うと、少女と傍らに立っていた人は、ブレることなく消えてしまった。
どこかへ、と言う必要がないくらいに、行き先は俺の家と決定していそうだった。
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