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…俺はヴィーナスに手を引かれ、言われるがままについて行った。
…
……
………
しばらく歩くと、目の前が急に明るくなり、きれいなバルコニーに立っていた。
ギリシア風の建築…と言うと聞こえはいいが、俺にはそれを確かめる術はなかった。
バルコニーから見える広大な森と湖。どこまでも広がるその素晴らしい景色に、俺はしばし心を奪われていた。
美加ちゃんが隣にいてくれたら、あの空とこの湖の蒼さを素直に感動できたろう…。美加ちゃんも、この空の下、どこかにいるのだろうか…。そんなことを思いながら、俺はふと我にかえった。
「あれれ?そういえばヴィーナスがいないぞ」
「お・待・た・せ☆」
「ヴィーナス!…ここは一体どこなんだ?」
「この地はキプロス。私の生まれたところです」
「ふ~ん。…ところで、さっき着てた服はどうしたんだい?なんで着替えたの?」
「そんな野暮なことは聞いてはいけません」
「なんでだよ」
「だって、『出番も少ないし、せっかく画を作ってもらってるんだから、いろんなバージョンを試したいじゃない』なんて、言えないでしょう」
「おもいっきり言ってるじゃないか…」
「さあ、そんなことよりも、あなたの恋人である結城美加さんが連れ去られた時の状況を詳しく話してごらんなさい」
俺は美加ちゃんが連れ去られた時の状況を詳しく話した。
「…そうですか。『古の契約』と言いましたか…」
「ああ」
「恐らく、アイオーンは『時の世界』にある『時の神殿』に結城美加さんを連れ帰ったに違いありません」
「時の世界、時の神殿…」
俺はそう言うと、黙りこくってしまった。
「そうです。そこが今回の舞台です」
「…へ?」
「な、何でもありません。こちらの話です」
ヴィーナスは聞き返した俺の視線を確かに反らした。
「…それじゃあ、俺を時の世界に連れて行ってくれ!俺はどうしても美加ちゃんを取り戻したいんだ!!」
「………………」
ヴィーナスは、先ほどの焦った表情から、急に一変し、真剣に困惑した表情を見せた。
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